第18回:保証人に対する情報提供と個人情報保護法

 平成29年5月26日に改正民法(債権法)が成立し、同年6月2日に公布された。施行期日は、平成32(2020)年4月1日と決定されている*1。改正項目は多岐にわたっており、その影響範囲は極めて広く、したがって本連載が検討の対象とする個人情報、プライバシー分野にも、当然、改正による影響が及ぶ。

 例えば、定型約款(改正民法548条の2以下)に関する規定がプライバシーポリシー等に及ぶのか、「利用する必要がなくなった」(個人情報保護法19条)と時効期間の変更の関係(改正民法166条)等々、様々な問題がありうるところである。

 個人情報・プライバシーに関する実務の最新動向について情報提供を行うという本連載の趣旨を踏まえ、今回は、個人情報保護法の観点から、改正民法において新設された、債権者の保証人に対する情報提供義務に関する規定(民法458条の2、458条の3)について解説したい。

1. 新制度の概要

 まずは、改正民法の制度の概要を説明する。

(1) 主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務

 改正により新たに設けられた民法458条の2は、次のように規定する。

保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

 同条は一定の要件のもとで債権者に対し保証人に対する情報提供義務を負わせる。債権者に情報提供義務が生じる要件と、提供すべき情報は次のようになる。

要件

①委託による保証契約の場合

かつ

②保証人の請求があったとき

提供すべき情報

主たる債務の元本および主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものについての

(a) 不履行の有無

(b) 残額

(c) 弁済期が到来しているものの額

のすべて

 次に説明する民法458条の3との比較でポイントとなるのは、委託のある保証の場合に限られている点、保証人が個人保証人か法人保証人かを問わない点、情報提供義務を履行しない場合の効果が明文で定められていない点*2である。

 (2) 主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務

 続く民法458条の3は、次のように規定する。

主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない。

 同条も債権者に対し保証人に対する情報提供義務を規定するが、その条件は民法458条の2とは異なっている。債権者に情報提供義務が生じる要件と、提供すべき情報は次のようになる。

要件

①主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したとき

②法人保証人ではないこと(民法458条の3第3項)

提供すべき情報

主たる債務者が期限の利益を喪失した旨

 上記の民法458条の2との比較でポイントとなるのは、無委託保証の場合にも適用がある点、保証人が個人保証人である場合にのみ適用される点、情報提供義務を履行しない場合の効果が明文で定められている点*3である。

2. 個人情報保護法上の取扱い

 上記1.の制度のもとでは、債権者は、主債務者に関する一定の情報を保証人に提供することになる。そして、主債務者が個人である場合、これらの情報は「個人情報」(個人情報保護法〔以下「法」ともいう〕2条1項)に該当しうるところ、個人情報取扱事業者(同条5項)たる債権者は、個人情報の取扱いについて一定の規制に服する。そこで、債権者としては個人情報保護法上どのような点に留意してこのような情報提供義務を履行するべきか。以下では、①債権者が個人情報取扱事業者であること、②主債務者が個人であり主債務者に関する情報が個人情報に該当することを前提に検討する。

(1) 債権者における取扱い

 債権者は、利用目的をできる限り特定し(法15条)、あらかじめ本人である主債務者の同意を得ない限り、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならない(法16条1項)。しかし、上記1.の制度に基づく保証人に対する情報提供は法令によって情報提供が義務付けられている、すなわち「法令に基づく場合」*4に該当することから、「保証人に対する情報提供」を利用目的として特定していなくとも利用目的規制に違反しない(同条3項1号)。

 主債務者に関する情報が債権者の個人情報データベース等を構成する情報(個人データ)に該当するときは、個人情報保護法23条以下の個人データの第三者提供に関する規定が適用される。しかし、上記1.の制度に基づく保証人に対する情報提供は、「法令に基づく場合」に該当するため、本人の同意なく保証人に対しての情報提供が可能である(法23条1項1号)。保証人が外国にある第三者である場合であっても、この結論は変わらない(法24条)。また、債権者は、個人データ提供者の記録義務(法25条)を負わない(法25条1項但書)。

(2) 保証人における取扱い

 保証人が個人情報取扱事業者に該当しない場合には、個人情報保護法の規制はかからない。

 他方で、保証人が個人情報取扱事業者である場合、保証人は、その取り扱う個人情報について利用目的をできる限り特定し(法15条1項)、原則として当該利用目的を通知または公表し(法18条1項)、特定した利用目的の範囲で当該情報を利用することになる(法16条1項)。上記1.の制度に基づいて受領した情報についても、このような利用目的に関する規制の対象となる。

 しかし、保証人は、保証契約を締結した時点で主債務者に関する基本的な情報を取り扱っており、それに先だって「求償権その他の権利行使」のような利用目的を特定し、通知または公表しているものと思われる(保証委託の場合には、法18条2項も参照)。上記1.の制度に基づいて受領する主債務者に関する情報も同様の目的のために利用することになると思われるが、それは利用目的の範囲内の利用と整理できるだろう。また、保証人が主債務者に対する求償権その他の権利行使を行うための個人情報の利用であれば一般に法16条3項2号に該当するため*5、そもそも利用目的外の利用ができる場合もある。

 なお、個人データ受領時の確認記録義務については、そもそも提供を受けるのが主債務者1名の情報であれば受領者にとって「個人データ」ではなく、保証人は確認記録義務を負わない*6。複数名の主債務者に関する情報を受け取るケースのように、提供された情報が受領者にとって「個人データ」にあたる場合であっても、上記1.の制度によって情報提供を受けることは法令に基づく提供であるから、保証人は個人データ受領者の確認記録義務を負わない(法26条1項但書)。

3. 無委託保証の場合に主債務者に関する情報提供を行う場合

 上記1.(1)の民法458条の2に関連して、無委託保証の場合には原則として保証人に対する履行状況に関する情報提供義務はない*7とされているが、無委託保証の場合に債権者の判断で民法458条の2と同様の情報提供ができるかにつき、主に金融機関の守秘義務*8の観点から議論がなされている*9

 議論の前提として、無委託保証について簡単に説明すると、債務が履行されないリスクを軽減するために債権者が保証人に対して委託し、債権者と保証人の間で保証契約を締結する場合がこれにあたる*10。近時では、売掛金債権に係る債務を主債務とする保証ファクタリング*11と呼ばれるサービスのように、主債務者(売掛金債権のケースでは、債権者にとっての取引先)に知られずに債権を保全できることを売りにするものが広く取り扱われているようである。

 以下では、無委託保証の主債務者が個人である場合について検討する*12

 無委託保証の場合における情報提供については、(a) 主債務者の同意がなければ守秘義務が解除されないことを前提に、主債務に係る債権に譲渡制限特約が付されていない限り、債権譲渡の譲受人に主債務者の個人データを提供することについて本人の同意の存在を推定できるとされている*13ことから、譲渡制限特約が付されていない限り、保証人への情報提供に対する主債務者の同意を推定できるとする見解*14(b) 情報開示の必要性・正当性と開示により顧客に及ぼす影響とを、具体的な場面に即して総合的に考慮することにより守秘義務違反の有無を検討するとの見解*15がある。

 しかし、「債務不履行の有無や主債務の額などは主債務者の信用などに関する情報であるから、主債務者の委託を受けていない場合にまで、これらの情報を請求する権利を与えるのは相当でないと考えられる」こと*16、そもそも個人情報保護法23条により主債務者本人の同意がない限り、主債務者に関する個人データを提供できないことを考慮すると、上記(b)の見解を根拠に個人情報保護法上問題がないと考えることには慎重であるべきであろう*17。また、上記(a)の見解のような整理はありうると思われるが、保証については、債権譲渡のように行政解釈が明示されているわけではなく、この整理に全面的に依拠することにも慎重であるべきであろう。

 そうすると、無委託保証の場合には、債権者と主債務者の間の契約において、「無委託保証人に情報を提供することがある」旨の条項を設けることにより守秘義務が解除されると整理したうえで、保証人に対する情報提供を行うのが安全と思われる。ただし、この場合、本人の同意はクリアできるが、提供先である無委託保証人が特定されていないため、債権者は、個人データの提供者としての記録義務(法25条)を負うことに留意が必要である。

 情報を受領する保証人については、法令に基づく取得ではないから、利用目的を特定しなければ当該情報を利用できない(法16条1項)。

 個人データ受領時の確認記録義務については、提供されるのが主債務者1名に関する情報であれば、受領者にとって「個人データ」に該当しない場合にあたり、確認記録義務は負わない*18。これに対し、提供される情報が、保証人にとって「個人データ」に該当する場合、保証人は確認記録義務を負う。

4. まとめ

 今回は、改正民法において新設された、債権者の保証人に対する情報提供義務と個人情報保護法の関係について解説した。

 個人を主債務者とする債権について保証会社等と保証契約を締結することが想定されている事業(例えば、カードローン事業や、保証会社付きの不動産賃借業など)や、個人を主債務者とする債務について保証契約を締結する事業(保証ファクタリング事業など)を営む企業の法務担当者は、改正民法の施行に向け、改正民法における新制度の内容を確認するだけでなく、個人情報保護法の観点から個人情報の取扱いフローなどを整理・検討しておくことも重要である。

(加藤伸樹・大島義則・松尾剛行)

*1:平成29年12月20日付「民法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(政令第309号)」

*2:この点については、債務不履行による損害賠償請求が可能とされている。潮見佳男『新債権総論Ⅱ』(信山社・2017年)671頁、井上聡=松尾博憲編『practical金融法務 債権法改正』139頁(金融財政事情研究会・2017年)。

*3:期限の利益喪失時から2か月以内に通知をしない場合、期限の利益喪失時から実際に通知がなされるまでの期間の遅延損害金について保証債務の履行を請求することができなくなる(民法458条の3第2項)。

*4:法令の規定で個人情報の提供そのものが義務付けられている場合または第三者が情報の提供を受けることについて法令上の具体的な根拠がある場合(個人情報保護委員会事務局・金融庁「金融機関における個人情報保護に関するQ&A」平成29年3月・V-5〔https://www.ppc.go.jp/files/pdf/kinyukikan_QA_170331.pdf〕参照)。

*5:「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」および「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」に関するQ&A・Q103参照。

*6:「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(第三者提供時の確認・記録義務編)」2221。

*7:潮見・前掲注2)671頁。理由として、回答義務によるコスト増大の問題、「情報提供義務が課されることの裏返しとして主たる債務者に対する債権者の守秘義務が緩和されることにもなる点」を挙げている。

*8:上記1.(1)の制度については「債権者が守秘義務の制約を免れる根拠となり得るもの」と説明されている(法制審議会民法(債権関係)部会・部会資料832・22頁)。

*9:中田裕康ほか『講義債権法改正』(商事法務・2017年)203頁など。

*10:植田兼司「デリバティブ保証の概要」金融法務事情1449号(1996年)26頁によれば、デリバティブ取引等においてリスクをヘッジする目的など金融保証と呼ばれる類型の保証において、無委託保証が利用されているようである。

*11:例えば、最判平成24年5月28日民集66巻7号3123頁は、保証ファクタリングに関する事案である。

*12:ただし、保証ファクタリングについていえば、主債務者(売掛先)が個人事業主である場合には引き受けないことを明示している事業者もあるなど、実態として、主債務者が個人となる無委託保証がどの程度あるかは定かではない。

*13:平成29年3月 個人情報保護委員会事務局=金融庁「金融機関における個人情報保護に関するQ&A」V1。

*14:井上=松尾編・前掲注2)139頁。

*15:井上=松尾編・前掲注2)140頁。

*16:法制審議会民法(債権関係)部会 部会資料76A 11頁。

*17:とはいえ、各事案の具体的な状況下においては、信義則上、保証人に対し何らかの情報の提供が義務付けられる可能性があり、その場合には、民法上は情報を提供しなければならないが個人情報保護法上はそれが正当化されないという難しい局面が生じうる。

*18: 「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(第三者提供時の確認・記録義務編)」2221。

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