第3回:【書評】清水陽平著『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル〔第2版〕』

 ここまで第1回第2回と、個人情報保護法ガイドライン案について加藤・大島・松尾の3人が共同執筆という形で解説してきた。本連載ではそうしたトピック以外にも、プライバシーなど情報と法をめぐる話題のうち本連載読者に有用と思われるものについて、必ずしも3人の共同執筆ではない形で随時掲載していく。今回はその第1弾として−−全5回を予定しているガイドライン案解説の箸休めという意味も込めて−−、松尾による書評記事をお届けしたい。

 

1.プライバシーともかかわりの深いネット中傷・炎上の問題

 近年、インターネットにおける誹謗中傷(ネット中傷)やいわゆる「炎上」(ネット炎上)の問題というのは話題に事欠かない。とりわけ、ひとたびネット炎上が起これば、そのターゲットとなった個人の顔写真、勤務先、通学先等がインターネット上で晒されるなど、プライバシー侵害が生じるケースも多い。その意味でネット炎上の問題は、名誉毀損だけではなく、プライバシーとも深くかかわっている。

 

2.清水陽平著『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル〔第2版〕』の紹介

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(1)ネット中傷・炎上対策の「定番の一冊」の改訂

 2015年に本書の初版が刊行されたところ、ネット中傷・炎上が社会問題化している状況下における待望の書籍として、その反響は大きく、実践的な内容が実務家の間はもちろん、一般の読者においても大変評判となった。また、筆者(松尾)もかつて、インターネット上の名誉毀損・プライバシーの実務を扱った自著(『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』 - 勁草書房)において本書の初版を引用し、書評(《法律実務書MAP》ブックガイドPartⅤ企業法務 - けいそうビブリオフィル)を書いたことがあるように、一般の読者だけでなく実務家にとっても示唆的な内容を多く含むものであった。

 そして、約1年半を経て出版された改訂版が、『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル〔第2版〕』である。

(2)裁判外での対応にフォーカス

 インターネット上の炎上や誹謗中傷・プライバシー侵害等があった場合の対応としては、主に裁判上の対応と裁判外の対応に分けられる。このうち、裁判上の対応については、本書でもその概略はフォローしているものの(78~90頁)、やはり本人訴訟は現実的ではなく、裁判上の対応が必要であれば通常は専門の弁護士に依頼することになるだろう。

 そこで本書は、読者が自ら対応できる余地の大きい、裁判外の対応にフォーカスし、「2ちゃんねる」(そのコピーサイトを含む)や著名SNSサイトをはじめ、各サイトごとの書き込み削除依頼の方法等について詳細かつ実践的な解説をしている。

 筆者(松尾)の実務経験上、誹謗中傷をしたりプライバシーを侵害したりする相手方を特定し、損害賠償等を請求することで、被害の一部を回復し、また、今後の再発防止効果を狙うという場合には、裁判上の対応が必要となる場合が多い。しかし、そもそも一般の人々にとって裁判に訴えるということのハードルは決して低くないうえ、単発的な投稿に止まり、再発の可能性が低い場合等は、単に当該投稿を消せばよいという場合も少なくない*1。その場合には、被害者本人が自分でネット上の書き込み等を削除(依頼)して、ネット炎上・中傷に自力で対応することも可能である。

 各サイトに訴訟外で削除を依頼する方法としては、テレコムサービス協会の(統一)書式によるもの(47頁以下)もある。ただ、多くのサイトが独自のウェブフォームを準備しており、そのフォームに適切な情報を書き込むことで、削除の対応をしてくれる場合も多いため、このような削除依頼ウェブフォームを使うことが便利である。そして、このような削除依頼ウェブフォームを中心とした裁判外の対応にフォーカスしたのが、本書である

(3)個別のサイトについての豊富な説明

 このような各サイト独自の削除依頼ウェブフォームについては、利便性が高い反面、初心者がうまく活用することが容易ではないという問題がある。

 一般論としては、これらのサイトの運営者は、いわば「第三者」であって、誹謗中傷やプライバシー侵害をする「犯人」ではない。そうすると、まるで犯人に対するものであるかのように強烈な表現を使って削除を要求すると、サイト運営者の態度を硬化させ、逆効果になる可能性がある。このような点は、はじめて削除依頼をする人にとっては分かりづらいところであり、本書の説明が参考になるだろう(46頁)。

 加えて、ウェブフォームは各サイトが独自に作っていることから、留意事項も各サイトごとにバラバラである。たとえば、サイトにもよるが、アカウントを持っていないと削除依頼ができないサイトが存在するとか、フォーム上の情報の一部が書き込みをした者に伝わる可能性があるといった点については、経験がないと戸惑うことも多いだろう。本書は、このような悩みに答え、30以上の個別のサイトについて、具体的なキャプチャー画像を利用しながら、どのように削除依頼を送るのが適切か、それぞれのサイトごとにどのような点に留意しなければならないかを説明している。

 初版では個別サイトに関する説明が約100頁とすでに豊富な内容であったところ、第2版ではなんと約200頁と、大幅に増強されており、実務上問題となることが多いサイトは、ほぼ網羅されているという印象を受ける。また、検索エンジンからの削除については、本書初版では総論的言及(初版53~58頁)に止まっていたが、第2版ではこの点の具体的な説明がされるようになっており(たとえばGoogle検索につき201頁以下)、一段と実践的になっている。

 本書を活用すれば、一般の方々や企業法務部の方々も*2、適切な削除依頼等を行い、誹謗中傷やプライバシー侵害情報を削除することができる可能性が高まることは間違いないだろう。これらの問題に関心を持つ方々にはぜひ本書をご覧いただきたい。そして初版を購入された方にとっても、上記のとおり初版に比べて個別サイトについての解説が質量の両面で大幅に充実していることを考えれば、やはりマストバイであろう。

(4)弁護士に相談すべき場合も

 なお、本書を使って本人で対応できる可能性が高いのは、裁判外の削除対応が有効な場合に限られる。上記のとおり、再発可能性の高い事案では、裁判外の削除請求の効果があまりない場合もあるので、注意されたい。

 加えて、本人として不快に感じているとしても、法的な観点から見て、それが違法な投稿かどうか微妙な場合には、削除が拒絶されることも少なくないので、これも要注意である。投稿の違法性の有無が微妙な場合については、裁判例の分析に基づく専門的判断が必要であり*3、専門家の助力が必要だろう。

 逆にいえば、これらに該当しないケースについては、本書を活用することで、本人である程度の対応ができる可能性が高いといえる。

 このように、プライバシー侵害を含むネット炎上・中傷の事案の中には、本書を活用して本人が対応できる可能性のある事案と、専門の弁護士等に対応を依頼する必要がある事案の双方があることに十分留意することで、より多くの方々が、最大限本書を活用できるものと考えている。

(松尾剛行)

*1:筆者(松尾)の印象としては、本人が本書等を利用して単純な削除依頼をするだけでは問題が解決せず、専門の弁護士にまでわざわざ相談が来るという案件は、悪質性が高く再発可能性が高い事案が比較的多いという印象である。そしてこのような再発可能性が高い事案の場合、削除依頼をするだけでは、「消しても消してもまた新しい投稿がされる」といういわば「いたちごっこ」になるおそれがあるため、やはり裁判上の請求を含め、発信者情報開示等の対応を行うことが必要であろう。

*2:なお、実務家も活用が可能であるが、一部のウェブサイトは、弁護士からの削除依頼と本人からの削除依頼を区別して扱う等、本書にはあまり書かれていない、実務家による削除依頼の場合の独自の注意事項があることには留意が必要であろう。この分野に慣れていない場合には、専門の弁護士との共同受任等が推奨される。

*3:名誉毀損について膨大な裁判例を分析し、「微妙」な投稿が「セーフ」か「アウト」かの分岐点ないしメルクマールを明らかにしたものとして、松尾剛行『最新判例にみる インターネット上の名誉毀損の理論と実務』(勁草書房・2016)参照。